しらふ倶楽部

昭和の漫画(劇画)を遠望する

空想科学漫画『忘れられた小道』(銀音夢書房)

忘れられた小道 銀音夢書房 空想科学漫画

印刷ショップへ送ったデータを取り違えてしまって、表紙と背に作者の名がのらないなどのミスが出たため、背表紙の一部から裏表紙の一部にかけてシールを貼ることになった。発行元(銀音夢書房)の名義はシールの背と裏の2か所に載る。
 以下は、後書き風の「解説」の一部。

 

 『忘れられた小道』は、一九六八年、作者の十四歳から十五歳にかけての習作である。「空想科学漫画」と銘打ち、物語の舞台は197X年の近未来の日本。内容は無邪気で、絵も粗雑なものだが、手塚治虫の強い影響のもとに、ユーモアも満載の楽しい昭和漫画だという感想もあるようだ。
 第三巻に「数年前の1970年」に起こったベトナムの核戦争で被災した少女が登場する。一九六八年の時点で一九七〇年代を想像し、そこから「数年前」におこりうる事件を想像しての話である。
 第一巻は、宇宙人から地球人への立ち退き要求の通告で始まる。太陽系が「宇宙航路」計画のための予定空間になるため、立ち退きが要求された。これは当時の成田空港新設問題などにゆれる日本社会を反映したものなのだろう。
 宇宙航路とは、定期便などの宇宙船が通行するための専用空間のことだろうが、宇宙は広いのだから、ちっぽけな地球などは避けて通ればよいとも思われる。が、理屈はともかく、宇宙航路のために、太陽系は地球もろとも消し去って何もない状態にしなければならないというストーリーである。地球存亡の危機である。
 子供向けSF漫画の「宇宙人もの」では、無気味な宇宙人による地球侵略か、あるいは高度な文明から地球人の戦争や環境破壊行為に制裁を与えるという類が多かったが、本作では、立ち退き問題という卑近な話になっている。結末は宇宙人どうしの内紛によって地球の危機は回避されるというものである。スーパーヒーローの活躍はない。
 それはいかにも後のシラケ世代の予備軍らしい醒めた見方であるのかもしれない。しかしやがて熱狂するものを失った時代の混迷の中にさらされることを思えば、書くことの楽しさを知った中学生時代の熱中こそが、「忘れられた小道」そのものだったのではないだろうか。