しらふ倶楽部

昭和の漫画(劇画)を遠望する

手塚治虫の『グランドール』

 『グランドール』とは、手塚治虫のSF漫画(異星人の侵略物)である(1968年「少年ブック」連載)。
 侵略者は、グランドールというあやつり人形を、人間の姿に変えて人間たちのなかに紛れ込ませ、人間全体を操ろうとする。
 哲男少年が助けた少女は、グランドールだった。少年はふだんから意志の弱いような性格だったので、自分はグランドールではないかと信じこまされようとする恐怖。少年と少女は、交流をもつうちに、少年は自分の意志をしっかり持つようになり、少女はグランドールであることをやめたいと思うようになる。
 結末は、少年はグランドールではなく、少女は、グランドールであるどころか、侵略者そのものであって、少年を実験台に人間までをも操ろうと試したのだという。少年への情に迷いはあっても、侵略者は負けを認めて撤退する。。
 少女との出会いが少年を成長させたという意味で、青春物という面もある。いつか次の侵略者が派遣されるだろうといっても、何もなければ、すべての事件は少年の日に見た一瞬の夢のようでもあり、幻のようでもある。
 当時人気がいまいちだったというのは、すべては友だちにだまされたもので終るという点にもあるだろう。少年誌でなく青年誌であるなら、二人は男女の関係になるので、実を結ばないこともあり、その意味もやがてわかるだろうと納得させられる。同じ部屋で寝ている場面があるのだから、本来は青年誌向きなのだろう。

 

 以上は旧稿だが、手塚治虫漫画全集の著者あとがきでは、SFとして高度な内容なので一般受けしなかったろうと書かれている。その他の理由としては、あるいは、全ては親友にだまされて終りというのが、少年受けしなかったのではないか。男女でも親友の関係になりうるというのは、大人には理解できなかろうが、少年には納得できるはずである。しかし大事な親友に騙されていたという話は、いただけない。
 14~15歳ごろの子供ともいえないような年齢なら、大人の世界が少し見えるようでもあり、面白く読めるかもしれない。

手塚治虫 グランドール

手塚治虫 グランドール