しらふ倶楽部

昭和の漫画(劇画)を遠望する

『マンガ黄金時代』

『マンガ黄金時代』は、
かつての『ガロ』と『COM』を主体に、1960年代後半~70年代前半の記憶に残る短編32編を750ページにまとめた文藝春秋の分厚い文庫本である。当時では、つげ忠男鈴木翁二までが文庫本で読める画期的な本だった。一種のアンソロジーといっても良いかもしれない。

発行の1986年は昭和61年、昭和も最後のころである。個人的には、1986年の当時は、ゆっくり読む余裕のなかった時期だったが。

今回、青柳祐介の『いきぬき』を読んでみた。最初に読んだのは1967年の末で、中学2年生だったので、大学浪人の青春の話は、よくわからなかったかもしれない。
センチメンタルな青春ストーリーである。
青年は田舎から出てきて予備校に通う浪人生、大学受験に2回も失敗しながら、母親の仕送りで、意気地のない生活をしている。
 こういう設定は、東大レベルの大学をめざし、家も裕福なのだろうとみるのだが……。
 街で偶然見かけた女性は、高校の同級生で、昔話で盛り上がった風でもないが、暗くなるまで一緒に遊び歩いて、彼女の誘いで彼女のアパートの部屋にまで行く。やさ男かと思っていたら、高校時代はラグビー部の選手で人気者だったらしいことが、二人の会話でわかるが、二人は男女の関係にはならずに、男が去る。そういう青春もあった。
 しかしラグビー部だったというのは、記憶のイメージとは異なっていた。絵も永島慎二風だと今回気づいた。

もう一つ、鈴木翁二の『マッチ一本の話』を読もうと思ったが、小さい文字が老いた目にはきつい。(この作は『ガロ』掲載作だが、『COM』のほうが字が大きくゴシック体で文庫サイズでは見やすい。)
絵だけ眺めていると、この本の中では、つげ義春と並んで最も魅力的な絵だとわかる。つげ義春の影響をうけていますということが、絵を見てすぐわかるのも良いと思う。この本でつげ義春の影響が感じられる絵は、他には、つげ忠男赤瀬川原平、あとは淀川さんぽくらいだろうか。意外に少ない。安部慎一池上遼一が入らなかったせいか。
 つげ義春の影響を強く受けた作家たちのアンソロジーという企画はどうだろう。

林静一の絵も、影響力の大きい良い絵だということがわかる。映像作家などへの影響もあったのではないか。