しらふ倶楽部

昭和の漫画(劇画)を遠望する

『幻の貸本マンガ大全集』

幻の貸本マンガ大全集


『幻の貸本マンガ大全集』 (文春文庫ビジュアル 1987)は、『マンガ黄金時代』(1986.6)に続く第2弾。
第1弾が、ガロ・COM傑作集のようなものなので、次に「貸本漫画(劇画)」とは、面白いシリーズが現れたと、当時は思った。
貸本はマイナーなものと見られているが、読者の数は多かったわけだし、読者でなかった人にとっても1冊でその分野の多数の作品を読めるのはありがたいのではないか。

劇画の初期からの作家である辰巳ヨシヒロそのほか劇画工房の面々。松本正彦の掲載の短編も読める。つげ義春は『おばけ煙突』が収録。桜井昌一は未収録だが、青林堂長井勝一との対談で参加。
佐藤まさあきの中編は、週刊誌時代のリメイク版なので、お色気が加わっている。(貸本ではお色気はなかったとは桜井氏の談)

辰巳ヨシヒロの短編は、怪奇現象とか幽霊の話になるのだが、結末が合理的に幽霊を否定してしまうので、もっと別の短編を載せてよかったのではないか。『マンガ黄金時代』と違って作品の選び方がイマイチなのは、作家毎の短編のデータベースがあるわけでもないので、やむをえないのかも。貸本を代表する作家はおおむね選ばれていると思う。

石川フミヤスの青春物は、どうということもない甘い話だが、なぜか2回も読んだ。あまり貸本らしくないのは、貸本末期の青春物だから(お色気あり)。

小島剛夕の悲恋ものの時代劇も悪くはない。水木しげるの「幻想ロマン」シリーズは小島剛夕風のジャンルのもので、幻想性ということでは水木作品が優れているが、男女の細かいセリフのやりとりなどは、少女向け作品ということもあり、小島剛夕は悪くない。

同じ時代物の平田弘史も読んでみた。平田作品は昔はずいぶん読んだものだが、武士道に生きるストイックな男たちの話が多く、この作も読ませる作品ではある。
仇討の話である。他家の養子になった二男が、その家を出て(養子の身分を捨てて)、弟として実家の兄の仇を討つという変わった話。ついに敵を見つけたら仇討の競合などもあり、なんとか本懐はとげたが、帰宅すると養父は自害していたとか、ならば討ち取った首は、競合相手に渡そうとか、ややこしい話になる。ややこしすぎて、本当にそんなことがありうるだろうかと思ってしまう。机上での思いつきを数多く放り込んだら、ややこしくなってしまったという印象もないではない。
その養父というのが、独身のまま千石にまで出世したいうのだが、千石といえば旗本クラス、殿様と呼ばれる身分なのだが、家臣や使用人は登場せず、武士たちには生活感はない。もともと平田作品にはそういった生活感はなかったかもしれない。
そんなわけで前述の小島剛夕のセンチメンタルな話が今は新鮮に見えたのかも。