しらふ倶楽部

昭和の漫画(劇画)を遠望する

つげ義春の『四つの犯罪』は

つげ義春の『四つの犯罪』は、1957年の貸本マンガであるが、たいへん優れた作品である。
96ページ四話の短編のオムニバス形式なのだが、先日ぱらぱらめくっていて気づいたことがある。
4話のうち3話は、アパート住まいの独身男をめぐる事件だということ。このままで、、
単に4話を並べるだけでは、そのことがすぐにわかってしまい、評価も下がったかもしれないのである。
そこで作者は、温泉宿の宿泊客の4人が、作り話をふくむ怪談話を順番に語るという全体のストーリー構成を思いついたのではないかと思う。上手いと思う。

1話は、舞台となる古い洋館の雰囲気がモダンである。犯罪計画は、人の錯覚を利用したトリックを使って、綿密に語られるが、些細な想定外のことがあって計画倒れになるというオチ。
つげ氏は、横溝正史のようなおどろおどろしい話は好きではないという。江戸川乱歩のようにきっちりしたものを好んだと語っていた。横溝については、映画をいくつか見たことがあるが、舞台となる旧家が「おどろおどろしい」だけで、背後にあるべき古い文化は感じられず、犯罪動機も机上のたんなる空想でリアリティがない。単なるホラーなのだろう。
きっちりしたものとは、当時からつげ作品では犯罪者を断罪したり反省させたりしてオワリというものではないので、犯罪動機に説得力があり、トリックなども科学的で合理的であることをいうのだろう。1話では、1階と2階が同じ間取りの洋館というのも不思議だが魅力である。江戸川乱歩には救いようのない犯罪の話が多いが、若かったつげ氏にはそこまではないが、後年の『別離』などは救いようのない話だと思う。

2話は、売れない漫画家の創作物語である。ストーリーの魅力というよりも、名曲喫茶のシーンや、若い漫画家が「漫画文学なんだぞ」と叫ぶ場面など、印象深い場面のある作品である。望遠鏡などの新しい道具への関心の高さもある。

3話は、遺産を相続した男が、変装趣味で世の中をあざ笑いながら楽しむ話。単なる変装では飽きてしまい、家具や身の回りの道具などを演出して、犯罪がおきたかのように見せかけるというなかなか手のこんだ話になっている。
以上の3話では、犯罪そのものが実行されたわけではない。

4話は、犬猿の中の二人の男どうしの殺人事件なのだが、被害者と犯人がどちらなのかがあいまいで、そのまま終るかと思ったら、話を聞いていた旅館の経営者が、自分が犯人だと名のり出るのも説得力がありそうなのだが、彼はすぐに作り話だと否定して、笑いの中で話は終る。

最初の道入部では、温泉客の4人が集まったいきさつについて、説明が長すぎるように思えた。「話好き」の4人が「十日以上もいた」ので楽しかったというのだが、実際にそういうことはよくあったのだろうか。普段は雑談でもたまたま偶然にその日だけが飛び入りもあり印象深い夜だったというふうなのが私の好みなのだが、キーワードは「話好き」であり、不思議な話を多く思いつく作家というのは、そういう人のことなのかもしれない。